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インタビュー

小林博子先生


昨年11月に行われた「絵本『とかげのアンソニー』から学ぶ認知症講座」で講演いただいた、鴨宮にあるひまわりメンタルクリニック院長、小林博子先生にお話しをうかがいました。

幼少期はどのようなお子さんでしたか。

小林:小学校の時代は体を動かすことが好きで町の体操教室に通ったり、公園の桜の木になるサクランボの実を食べて口を紫にしたり、つつじの蜜を吸ったりしていました。

活発なお子さんだったのですね。そんな中、医学の道に進まれるようになったのはどのようなきっかけがあったのですか。

小林:もう廃版になってしまったと思うのですが「科学と学習」という雑誌が月に1度家に届くのが楽しみで。その付録に脳の不思議について書かれた本があり、それが愛読書だったんです。

どのような中身だったか覚えていますか。

小林:脳のニューロンの働きから、どうやって記憶するのかとか、脳はどうやって繋がっているのかなど、基礎的な知識をそこから学びました。

それはいつ頃読まれていたのですか。

小林:小学校5年生頃です。ずっと枕元にあって、夜寝る前にそれを見て寝ていました。医学がというより、脳とかそういうのが好きでした。なので中学の時は理科の先生になりたかったです。採点の丸つけが羨ましくて(笑)高校の時に、脳って不思議だなと思い医学部を目指しました。

他に当時読んでいた本で、記憶に残っているものはありますか。

小林:星新一さんのシリーズや、多湖輝さんの『頭の体操』など読んでいました。

今のお仕事について伺っていこうと思うのですが、精神科医とはどのようなお仕事でしょうか。

小林:何か気持ちの問題が起こったときに、それがどこから来ているのかを探りだす医者です。栄養不足や、甲状腺機能の問題、貧血でもドキドキすることがありますし。そういう体の不調がないかを鑑別したうえで、本当に精神疾患なのか見極める仕事です。

とても難しそうなお仕事です。精神科医のどういうところに難しさを感じますか。

小林:患者さんと接していて大変と思うことはないのですが、時間がかかるんですね。初診は1時間や1時間半かかっちゃうので、何人も診ることができないんです。なので予約がいっぱいになってしまったらお断りしてしまうことも。診ることができず申し訳ないなと思いますね。

そんなに診察に時間がかかるのですね。

小林:初診で間違えてしまうと、その後の治療の方向性がボタンの掛け違いのようになってしまうので。

反対に、お仕事のやりがいはどのようなところに感じますか。

小林:精神科の病気って、良くなる方はものすごく良くなるんです。だからそれはとても嬉しいです。鬱とか統合失調症のお薬もとても良くなってきていて、治る方も増えてきています。認知症のように少しずつ進行する病気もありますが、その中でもノウハウが増えてきています。

良くなるとやっぱり雰囲気とか、表情が変わりますか。

小林:顔つきが変わりますね。他の科って、例えば風邪で病院にかかっても、良くなったらもう病院に行かないですよね。だから、医者としては自分の治療法で本当に良くなっているのかどうか、なかなかわからないですよね。でも精神科ってあんまりそういうのがなくて、最後までフォローアップができて、いい科じゃないかなと思います。

たしかにそれは精神科ならではのお話ですね。それでは、絵本『とかげのアンソニー』のお話も伺っていきたいのですが、どうして絵本を出版しようと思ったのですか。

小林:実は出版する10年くらい前にはもう物語はできていたんです。認知症の家族を介護する方って、本を読む時間がないんですね。だから、ちょっと読めて、気持ちが和らいで、認知症を理解できるものがあったらいいなと思って。それが絵本だったんです。

たしかに、短い文と絵だけなら、手に取りやすいですよね。一番苦労された点は何ですか。

小林:自分の中のアンソニ―やお母さんが出来上がっているのに、画力がないので表現するのが大変でした。誰かにお願いをしようと思っていたのですが、自分のイメージしていたものと違う”とかげ”が出てきてしまって、「これは違う」「アンソニーは赤色なんです」って言っていたら、「じゃあ自分で描いてみれば」という風になっちゃったんです。

講演会では”とかげ”を描かれた理由は「人間や身近な動物ではなく、”とかげ”なら異国の、自分から遠い話のように思えるから」とおっしゃっていましたね。他に違う動物の候補などはいたのですか。

小林:最初からとかげでしたね。アンソニーはフトアゴヒゲトカゲというとかげなのですが、描くときはその飼い方の本の写真を参考にさせていただきました。

絵本の中では、7日後に完成する毒という少し怖い描写が出てきますが、最初から物語に入れようと思っていたのでしょうか。

小林:はい。ただ、認知症本人とご家族を元気づけたいと思って描いたのに、それが不愉快に思われてしまったら本末転倒になっちゃうので、そこは大変気にして、何度も見ていただきました。そのたびに「私の気持ちを代弁してもらったような気持ちです。」と言われて、背中を押してもらいました。

最後に、今後取り組んでいこうと思われていることがあれば教えてください。

小林:介護のヘルパーさんや訪問看護師さん、在宅でお助けされている方って、コロナ禍すごく大変だったんですね。コロナの対応をしながら在宅を支えるということをなさっていて、その方々を応援する絵本を描きたいと思っています。

小林先生はいろんな方を応援されていますね。

小林:患者さんにもそう言っているかもしれませんね。何をするんだってこともないんですけど、でも気持ちだけは陰ながら応援していますよって感じで。

出版される日が楽しみですね。他にも何かございますか。

小林:認知症の方の意思決定についてです。認知症の方は何にもできないではなくて、「何かやりたい」といったときに、「だめだよ」というのではなく、「じゃあそれをどうしたら実現できるかな」という方向で取り組んでいきたいなと思っています。それはもう私一人ではできないので、薬剤師さんや看護師さん、ケアマネさん、ヘルパーさん、他の科の先生も含んでいかなければいけない問題です。多職種連携の中で、どうやったらその人の意思を尊重してあげられるかという点を大事にして取り組んでいきたいです。

プロフィール

小林博子
横浜市立大学医学部卒業、同大学院精神医学専攻、ドイツのミュンヘン大学医学部神経病理学教室にてフンボルト奨学生として留学。小田原の曽我病院での勤務を経て2002年、鴨宮にひまわりメンタルクリニックを開業。2019年に絵本『とかげのアンソニ―』を出版。高齢者が安心して暮らせるまちづくりを地域全体で行う「しもふなかコンパス」の代表としても活躍中。