出版社:筑摩書房
スタッフによる本の紹介:
今回は伝記を紹介します。レイチェル・カーソンは1900年代半ば、アメリカで活動した生物学者、作家、生態学ジャーナリスト
です。今年で没後60年になります。
子どもの頃、自然に囲まれて育ったカーソンは物語を創作するほどの大の本好きで、将来は作家にな
ることを夢見ていました。ところが大学時代、生物学を受講したことでその面白さに気づき、専攻を
英文学から変更します。
当時はアメリカも女性は家庭に入るのが一般的で、ましてや生物学者になる人などいませんでした。
ですので、カーソンの知への欲求は相当強いものがあったのでしょう。その上、世界恐慌や第二次世
界大戦といった歴史の大きな動乱をも経験しています。しかし、カーソンはめげることなく目の前の
仕事をコツコツと続け、キャリアを積み重ねていきます。
1900年代は科学が急速に発達し、人類は万能の力があるかのような錯覚を起こしていました。そんな
中、カーソンはいち早く化学物質を使用した農薬の危険性に気づき、放射能に匹敵するほどの害があ
ると人々に訴えたのです。この頃はまだ環境保護やエコロジーといった言葉はありません。人々は、
農薬を使わなければ害虫によって作物は不作となり、食糧が足りなくなるという考えと、カーソンの
言うように、地球上の生物は相互関係の上で成り立っているため、化学物質は科学的な検証を行うこ
となく使用されてはならないという考えとに真っ二つに分かれました。
この伝記では環境汚染への啓発を世界で初めて行った人、ということだけでなく、当時の社会で女性
が職に就くことの大変さも描かれています。そして幼い頃からあこがれていた海との出会いの場面も
とても印象的です。カーソンが告発した環境問題は今日の地球温暖化防止策やプラスチックごみの削
減などとつながっています。
強い使命感を持ったレイチェル・カーソンと、その主張を正しく理解した人たちがいなかったら、現
在の私たちを取り巻く環境は取り返しのつかない状態になっていたかもしれません。
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